第一話 「お酒」 2006.5.8
ホントにお酒が好きな人だった。外で飲むより、家でゆっくり飲む方が好きだった。ビールでのどを潤し、そして焼酎に移る。でも、病気になる前の数年は酒量も増え、家族が「休肝日」をしつこく要求しなければならないほどで、仕事でかなりのストレスをためこんでいたことが伺えた。
肝臓をこわすのではないかと心配していたけれど、前立腺とは……。夫が最後に飲んだお酒が忘れられない。
2月11日、家族でなにかお祝い事があると行っていた、ご近所のお店へ。2人だったので初めてカウンターで食事をし、日本酒を飲んだ。「ああ、おいしいお酒だった」と店を後にしたが、それが、彼が口にした最後のお酒だった。
職場の同僚でもあり、長年の家族ぐるみの友人でもあるTさんが、13日通夜の
日、「西の関」の酒を供えてくれた。14日葬儀が終わり、お別れをする時、式場の方のご配慮で、みんなでお酒を含ませた綿花で口を湿してあげることが出来た。
お別れ会の前日の15日の夜、家族ぐるみの友人だったNさんご夫婦が埼玉からかけつけてきてくださった。
実はNさんご夫婦は、3月10日に、親戚の結婚式で帰省したときに病院にお見舞いに来てくださっていた。「Nさんに会えてうれしかったなぁ」ととても喜んでいた。Nさんからは「コテのお骨を拾いたかった」と泣かれた。ご夫婦で我が家に泊まり、息子たちと一緒に夫の遺影の前で酒(久保田)を一升空けた。
泣いたり笑ったりにぎやかな一夜となり、哲二も喜んだに違いない。
「西の関」と「久保田」